香港国家安全維持法が6月30日に施行されましたが、当初の想定以上に外国企業にとって様々なリスクが浮上し、一層の警戒感を強めています。
7月12日日本経済新聞朝刊記事より一部引用します。
香港に進出或いは香港を経由して取引を行うグローバル企業とって、米中の間でいわゆる「踏み絵」を迫られたり、報道機関やインターネット関連の規制が、中国本土並みの厳しさになる可能性がある、と報じています。あの自由闊達で活気のある香港がなつかしい、と懐古する方々も大勢いると思います。
では一体どのようなリスクがあるのでしょうか?発表されている条文より具体的に内容を見てみましょう。
・外国企業との結託を処罰(29条)→米中対立で企業が「踏み絵」を迫られる恐れ
・企業や香港外の犯罪にも適用(31,38条)→適用範囲が広く、ビジネスの往来に支障も
・出国制限や財産の凍結、通信傍受などが可能(43条)→捜査機関に強い権限を付与
・ネット情報の削除をプロバイダーに要求でき、従わなければ罰則(実施細目)→ネット規制が強化され一部サービスが利用できなくなる恐れ
・メディアの指導・監督強化(9条)、外国メディアへの管理強化(54条)→報道の自由が損なわれる恐れ
・中国政府は特定の状況下で管轄権を行使。本土で起訴や裁判も(55,56条)→司法の独立性が形骸化する可能性
いかがでしょうか?自由と民主主義を理念とするいわゆる西側諸国とは、全く相容れない事態が待ち受けていると思われます。
特に、外国人を含め香港外の同法違反も取り締まり対象になる、という38条は、まったく他人事ではありません。例えば、日本で中国共産党を批判する言動を行った日本人が香港に入境した際に拘束されるリスクがある、ということです。すでに、カナダ・オーストラリアは香港との犯罪引渡し条約を停止し、自国民に香港への渡航注意を呼びかけています。今のところ、日本政府からはそのような発表は聞かれません。
また、29条で禁じている「外国勢力との結託」とは何を指しているのかも判然としていません。特定の企業が米国などの制裁措置に従った場合、中国から同法違反に問われる危険性もあると指摘されています。
すでに中国本土で展開している日系企業にとっては、これまで本土における規制に対応してきたわけですから、比較的冷静に受けとめているとも言われていますが、新たに(米中から)忠誠を示すように求められる可能性があり、どちらを選択するかにコストが伴う、とも想定されています。
いずれにせよ、「あの香港」はもう二度と戻ってはこないでしょう。
今後、米国の金融機関への制裁が本当に行われるのか、予断が許さない状況が続きます。